アーサー王学会日本支部会、続き。
後半戦は、斉藤洋先生の講演。
斉藤先生にお目にかかるのははじめてでしたが、圧巻の講演でした(もはやショーといってもいい)。
講演とはいえ、壇上でずっとしゃべっているのではなく、フロアに降りてきて、机の間をあっちこっち行き来しながら話を進めていきます。
その途上で、手近な人に話しかけ、反応を誘いだし、それを受けてさらに話を展開させていきます。
1分に1度は笑い声が上がるその話術は、おそらくは講談や落語の影響を色濃く受けているのではないかと拝察されます。作家であり、大学教授でもあり、講演者としてもとても面白い。
アーサー王物語は面白くない
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なぜなら、登場人物たちの行動や感情の動きが支離滅裂だから
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しかしその支離滅裂さに整合性をもたせないと始まらない
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たとえば滅裂な言動は以下のとおり。
1.ユーサー・ペンドラゴンは、なぜよその人妻イグレーヌに手を出したか?
2.イグレーヌは、夫が魔法で変身したユーサーだと気づいていたかいないか?
3.マーリンは、なぜユーサーの愚かしい欲望に加担したか?
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それに対して、
1.美に魅入られた呪いである。
2.知っていた。夫が別人であることは、ふつう秒で気づく。でも夫は戦死している可能性が極めて高く、目の前にいるのは夫に姿を変えた「王」である。こことくっついたほうがいい。
3.マーリンはユーサーに恩があった。だからユーサーに恩返しをした。同時に、愚かしい欲望を抱いたユーサーを見限った。報恩と幻滅の同時進行。よって(よりよい王にするために)産まれた子どもを引き取ることを交換条件にした。
と解釈する。
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ところがこの一連の感情と行動により、
4.生まれたアーサーはグウィネヴィアに惚れる
5.グウィネヴィアはふたりの男に惹かれる
6.ランスロットは主君の妻を愛する
というさらなる滅裂が生まれる。
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なのでさらにそれに対して、
4.息子もまた、美に魅入られる呪いを受けている(因果応報)
5.グウィネヴィアはろくな女じゃない(笑)
6.そもそも、男は悪と不可分である美に惹かれる。たとえ身を亡ぼすことになっても。ランスロットしかり。肝心のマーリンすらも。
という解析が行われる。
ものすごく大雑把に論旨だけ追いかけると、以上のようになります。
(後半の因果応報のくだりは、必ずしも父の悪行の報いを息子が受けるというう日本的な因果応報ではなく、もうひとひねりあるのですが、ひとまず省略。
また儒教・朱子学の話、西遊記の孫悟空と三蔵法師の関係、リライトという〈筋〉の有無についてなども絡ませていくのですが、その点を詳述するのも手に余るので省略)
このように話を進めていきながら、
「マーリンは、家臣としてひどい。あなただったら主君からひどい命令をされたらどうします?」
「あなた、自分がアーサーだったら、グウィネヴィアを妻にしたいと思いますか?」
「ちょっと「こんな女、サイテーです」と言ってください」(岡本先生、言わされる)
などなど、アーサー王学会における究極の問いともいえる質問が、聴衆を巻き込んでいきます。
この間にホワイトボードに書かれたのは、
「不貞」
「忠臣」
「呪い」
「美・悪」(それぞれ〇で囲んで、その〇を部分的に重ね合わせる)
の文字。
まるで創作落語の三題噺のように、これらのお題を与えられてとっさに喋ったんじゃないかと見まごうばかりの、グルーヴ感にあふれたあっという間の1時間超でした。
質疑応答では、片手にマイク、片手にうちわ(!)を手にした小宮先生も立ち上がり、さらに盛り上がりました。
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