7月11日の産経新聞に、
夫馬信一さんの『緊急事態 TOKYO 1964 聖火台へのカウントダウン』
の書評が掲載されました。
評者は論説委員の森田景史さん。
こちらの産経サイトからも全文が読めます。
「本書は、10月10日の開会式を迎えるまでの数カ月間、日本や世界を襲った多事多難と、人々の苦闘を描いている。その主役はときの権力者でも超人的な競技者でもない。聖火台に火を点じた坂井義則氏(故人)ら地位や名声と無縁の若者たちだ。」
という一文が、本書の内容を的確に伝えてくださっています。
仰々しいものや欲がなく、夢見るに足る未来や若さがあった――。
別に懐古趣味になるわけではないですが、しかし1964年の日本にそういう側面があったことは確かだったのでしょう。
ひるがえって今……と考えると暗澹たる気持ちになります。
いま、五輪に関して、夢見るに足る未来や若さがいささかでも感じられるかというと、これはもう誰もが否と答えることになります。残念ながら。
僕は思うのですが、64年大会について夫馬さんがこの本を作ったように、50年ほど経ったときに、誰かが21年大会についても歴史として描写する本を作ることでしょう。
いまわれわれは、そういう「歴史の材」となる現場に立ち会っていて、そして自分たちがどう考え、態度表明したかを、憶えておく必要があるのだと思います。
つまり、後世の人から、「どう考えてもバカなことをしたように見えるが、当時の大人たちは何を考えていたのか」と問われたときに、きちんと答える用意をしておきたいということです。
小社が21年大会にもっとも接近した結果がこの本です。
このブログで何度も書いているように、この本は現状への批判本ではありません。歴史の本だと思っています。
そして歴史は現在を照射します。
「名もなき人々が、そう問いかけている」と結ばれる今回の書評を読んで、みずき書林が五輪に対して行った唯一の態度表明が夫馬さんとのこの本であったことを、誇らしく思い始めています。
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