ご縁があって、「大学出版」第125号の
「コロナ禍のなかで知を届ける」
という特集のなかに、「〈ひとり出版社〉とコロナ禍」という短い文章を書きました。
ぼくは「ひとり出版社」枠で参加しているのですが、ほかに大学図書館、大学教師、出版社編集部、同営業部、書店、生協などいろんな方が寄稿しています。
ひととおり読んでみて、ものすごくいい意味で「いまこの業界で働いている人の、楽観的ではないけど特別に悲観的でもない生活実感」が感じられたような気がしました。
ようするに、生活するとはこういうことなんだ。と感じさせるというか。
大学図書館の課長である川崎安子さんは、予約制になって利用が制限された利用者に罵詈雑言を浴びせられた経験を記しながらも「辛抱強く丁寧に対応した司書スタッフを心から誇りに思う」と結んでいます。
ぼくは本業の傍らで非常勤講師業もしているので、授業の苦労についても多少わかる部分があるのですが、大学教員・岡部晋典さんは冷静かつ具体的に「同時代的なスナップショット」としてのオンライン化狂騒曲を描きつつ、その筆致はどこか笑みを含んでいるようです。
北大出版会の仁坂元子さんは「作ったからには売らなければならない!」と直販方法の強化を訴え、丸善雄松堂でオンライン授業のツール開発・サポートを行う橋本幸博さんは「可能性を肌で感じることができた」「驚きとともに、手応えも感じている」「望外の喜びとなっている」といったことばを多用しています。
つまり――おそらくぼく自身のテキストも含めて――わりあいに常温なのです。
この業界の人たちは逆境乃至低空飛行に対して耐性が強いというか(笑)。
日々の営みを淡々とこなしていくなかで、浮いたり沈んだり、喜んだり悲しんだりがあるものです。そういうことは、いっそコロナとはほとんど無関係に、それぞれの暮らしに訪れます。
……などと、おそらくこの冊子の編集者の意図とはまるで異なるであろう、茫洋としたことを感じたりしました。
なお、京大生協に勤務する武田博輝さんが、コロナの影響をもろにうけた昨年4月の店頭の様子として書いていた、
「通常開講ならあまり利用のない高額書が多く売れるなど、先輩からの情報を得ることが出来ず手探りで教科書を購入しているように思われるケースもありました」
という一文に思わず笑いました。
先輩からテキストを譲ってもらったり、コピーをとりあったり、そういう学生文化も一時的に消えてしまい、生協としてはおやおやと苦笑しつつも、哀れをもよおしたでしょうね。
同冊子はいずれ大学出版部協会のサイトでも全文DLできるようになるとか。
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