内科医の山田孝也先生が『月刊保団連』9月号に、
「冨五郎日記の医学的考察(下)」
という論考を寄せておられます。
前にも少し書きましたが、以前に発表された(上)の続編となります。
『マーシャル、父の戦場』の冨五郎さんの日記を精読くださり、彼の死因について医学的立場から解読を試みます。
そして「栄養失調にヨード欠乏による甲状腺機能低下症が加わり、心不全を発症して死亡した」という仮説を検証されています。
圧巻は、日記の記述から体調や海産物についての記述を抜き出した図表です。
「歴史実践」というのはこの本のとても大切なキーワードのひとつですが、本田先生がなさったことも、まさに歴史実践だと感じます。
医学というご自分がお持ちの技術を駆使して、74年前に南洋で餓死した39歳の死因に迫ること。佐藤冨五郎さんと本田先生という、一面識もない人同士がつながり、そのつながりに新しい意味を与えていくのは、まさに歴史実践のかたちであろうと思います。
「身体は冷る」「手、糸の如くなり冷たし」といった記述に注目し、海藻や魚介類に含まれるヨードから冨五郎さんの容体を説明しようとするのは、時間を超えた問診を行っているようです。
そして原田豊秋さんに日記を託した心理を推し量り、
「実直で年上の冨五郎氏は皆から慕われていた」
「自分で食料を探せない冨五郎氏に代わって、周囲の人々が少しずつ工面したのではないか」
「死の前日まで日記を書くほどの気力を失わなかった事例を経験したことはこれまでにない」
と記すのは、あたかも患者と対話し、臨終に立ち会っているようです。
この本を出すことができて本当によかったと思える論考でした。
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